大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和59年(ワ)1453号 判決 1990年2月16日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 山下登司夫

同 上柳敏郎

同 小野寺利孝

被告 埼玉県

右代表者埼玉県知事 畑和

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

同 福田恒二

右指定代理人 稲田昭夫

<ほか二名>

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「1被告は原告に対し、二億〇二三五万四八三四円及びこれに対する昭和五九年三月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。2訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び1項について仮執行の宣言

二  被告

「1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする。」との判決と(仮に原告の請求が認容され、仮執行の宣言が付される場合における)仮執行の免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

原告は、昭和五九年二月二九日午後一一時三三分ころ、国道一六号線を狭山方面から大宮方面へ向け自動二輪車(熊谷み一三八九)を運転して進行中川越市大字大仙波三七一番地先路上に於いて、埼玉県警察巡査三塚芳郎の運転する普通貨物自動車(大宮四四さ六四八三)と衝突し、頸髄損傷、四肢麻痺の傷害を負った。

2  責任

被告は、右三塚芳郎運転車両(以下「三塚車」という。)を保有し自己の為に運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

原告は、下半身、左半身が完全に麻痺しており、右手の動きの一部が可能というものの、ほんの限定された動きしかできない。働く能力を全く失ったばかりか、日常生活動作全部に他人の介助が必要である。

イ 治療費 二〇五万一二九七円

内訳

武蔵野病院(昭和五九年三月八日乃至四月一三日) 八六万七五六〇円

防衛医科大学校病院(四月一三日乃至七月一九日) 六三万一八四七円

埼玉県障害者リハビリテーションセンター(七月一九日乃至九月一四日分) 五五万一八九〇円

ロ 入院雑費 三〇万六〇〇〇円

一日一〇〇〇円として昭和五九年三月一日乃至一二月三一日の三〇六日分

ハ ガーゼ、人工肛門、尿管用替具等消耗品費用(昭和五九年一二月一七日乃至六三年二月二六日支出分) 八三万四七三八円

ニ ベッド、リハビリ用風呂、自動ドア等居住用設備費用(昭和六〇年一月三一日乃至六三年四月三〇日支出分) 六六三万二八三〇円

ホ 付添費 五五三一万九四〇〇円

一日六〇〇〇円、平均余命五二・〇七、ホフマン係数二五・二六として

ヘ 逸失利益 一億一四〇三万九〇〇〇円

原告は、昭和五九年四月より父親のもとで型枠大工として稼働する予定であった。

一八才乃至二〇才で一日平均収入五〇〇〇円、二一才乃至二四才で同一万円、二四才以降一万五〇〇〇円を下らない。稼働日数を一年三〇〇日とし、ホフマン係数によって計算した。

ト 慰謝料 二〇〇〇万円

チ 弁護士費用一九一七万一五六九円

4  よって、原告は被告に対し、前記損害額合計二億一八三五万四八三四円から自賠責保険で填補された一六〇〇万円を控除した二億〇二三五万四八三四円及びこれに対する事故の日の後である昭和五九年三月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否と主張

A  認否

1 請求の原因1のうち、原告の傷害の内容及び程度は知らないが、その余の事実は認める。

2 被告が三塚車の保有者であり自己のために運行の用に供していたことは認めるが、被告に責任があるとの主張は争う。

3 原告の傷害の内容及び程度並びに損害については知らない。

B  主張

本件事故について、三塚巡査乃至被告には過失はないし、三塚車には構造上の欠陥又は機能の障害もなく、本件事故は原告の過失によって生じたものであるから、被告に法的責任はない。すなわち、

1 本件事故現場の状況及び交通規制

イ 本件事故発生場所である川越市大字大仙波三七一番地先交差点(以下「本件交差点」という。)は、別紙図面記載のとおり、車道幅員一五・五メートルの国道一六号線に、片側から幅員四メートル及び三・二メートルの各川越市道が交差し、また、別の片側から幅員六メートルの川越市道が交差している交差点である。

ロ 国道一六号線は、片側二車線ずつの四車線で、道路中央に幅一メートルの中央分離帯が設けられており、本件交差点付近は平坦直線で視野を妨げるような障害物はなく、交通規制は駐停車及び転回が禁止され、速度制限は毎時五〇キロメートルである。

ハ 本件交差点に信号機は設置されておらず、川越市道側に一時停止の標識が設置されている。

2 本件事故の発生経過及び状況

三塚巡査は、三塚車を運転し、本件交差点を狭山市方面に右折するため、方向指示灯を右に点滅しながら、別紙図面①地点に一時停止し、左右の安全を確認したところ、右方約二〇〇メートル先に普通自動車を認めたに過ぎなかったので、時速約五―七キロメートルで前進し、別紙図面の②地点に至った際、右方には、百数十メートル以上先に自動二輪車(原告車)及び普通自動車を認めたものの、他には車両が存しなかったのに対し、左方には、約五五メートル先に普通自動車を認めたので、別紙図面の③地点に停止し、左方からの車をやり過ごし、その後再び自車を発進させようとした矢先、指定速度を四〇キロメートルも超過する時速約九〇キロメートルの高速度で横倒し状態で滑走してきた原告車が右側ドア付近に衝突したものである。

3 三塚巡査の無過失等

イ 前記の事故発生経過及び状況からみて三塚巡査が自車の運行に関し注意を怠らなかったことは明らかであり、また、被告は三塚車の運行に対し、注意を怠ることはなかった。

ロ これに対し、原告は、後部に同級生を同乗させて、原告車を運転し、国道一六号線を狭山市方面から大宮市方面に向かって進行していたものであるが、既に本件交差点内(別紙図面の②地点)を徐行中の三塚車を容易に発見しえた筈であるから、三塚車の動静に注意し、本件交差点の手前で停止できる速度に減速するか、第一車線に進路変更を行う等して、三塚車との衝突を回避すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、指定速度を四〇キロメートルも超過する時速約九〇キロメートルの高速度で、しかも、前方不注視のまま、漫然と進行するという重大な過失により、至近距離にいたるまで、三塚車を発見せず、本件交差点の手前約一〇メートル付近からは、自車を横倒し状態で滑走させ、三塚車の右側ドア付近に衝突させたものであって、本件事故は、原告の一方的過失によって発生したことが明らかである。

ハ また、被告は、三塚車の運行に関し、注意を怠っておらず、三塚車には、構造上の欠陥及び機能の障害はなかった。

三  右被告の主張(二B)に対する原告の認否反論

前文の主張は争う

1  (本件事故現場の状況及び交通規制)についての主張は概ね認める。

2  (本件事故の発生経過及び状況)について

原告が国道一六号線を狭山方面から大宮方面へ向け川越市大字大仙波三七一番地先路上を直進中、普通貨物自動車(大宮四四さ六四八三)を運転して原告の進行方向左側の交差道路から国道一六号線を狭山方面に向かおうとして右折進行しようとした三塚車と衝突して本件事故が起こったことは認めるが、その余は争う。

イ 三塚車の進行状況

三塚車は、右折進行するに当たり左右の安全を確認しないで突然右国道に進入したのである。

また、三塚車は、本件交差点内で停止したようなことはなく、衝突地点まで一気に進行してきたものであり、本件衝突時には時速二〇キロメートルで走行中であった。次の事実が、このことを示している。

① 事故現場に残された三塚車のタイヤ痕跡は、原告車の進行方向に平行(すなわち、本件国道に平行)に付いているのではなく、本件国道に対して斜めに横断するような角度でついている。

② 事故直後の実況見分調書の写真には、三塚車が中央分離帯を越えて対向車線に自車前部を進入させた状況が写っており、また事故後に車を動かしたとは思えない。

③ 原告は、衝突前とは反対の方向を向いて倒れているが、これは三塚車の動きによって回転させられたものと考えられる。

④ 三塚車の右後輪のタイヤに布目痕があるが、これは倒れた原告ら乗員の被服を動いているタイヤが擦過して生じたものと考えられる。

⑤ 三塚車のドアの曲がり方は、前が浅く、後ろが強くなっている。

また、三塚車のドアの傷は、横に延引している。

ロ 原告車の進行速度

原告車の制動直前の速度は、時速七四キロメートル未満であり、衝突地点の手前八五・八メートル地点での速度は八三キロメートル未満である。

3  (三塚巡査の無過失等)について

争う。

イ 三塚には、次のような過失があることは前記の事実関係から明らかである。

① 右折発進時の過失

三塚は、本件交差点を右折進行するに当たり、同交差点の直前で一時停止したときに、左右の安全を確認すべき注意義務があり、特に交通量の少ない深夜においては時速八〇キロメートル以上の速度で走行している車両が少なくないことを予測して安全確認義務があるのに、右義務を怠った。

② 交差点内における過失

三塚は、本件交差点内でも停止することなく衝突地点まで一気に進行したものであって、交差点内でも左右の安全確認義務を怠った。

仮に、三塚車が本件交差点進入の後に交差点内で一時停止したとしても、その場合には中央分離帯区域に停車する等して国道一六号線上の通行車両の進路を妨害しないようにする義務があったのに、この義務を怠った。

③ 誘導者等を付さない過失

三塚には、本件交差点の特殊な形状から、右折する場合、誘導者をつけるなどして安全確認をする義務があるのに、右義務を怠った。

ロ 原告に過失があったという被告の主張は争う。

原告車の走行速度は前記のとおりであり、三塚車が飛出してきたのである。

ハ 被告は、三塚車の運行に関し、注意を怠っておらず、三塚車には、構造上の欠陥及び機能の障害はなかったとの主張は争う。

四  原告の右反論(三2、3)に対する被告の反論

1  三2の主張に対し

イ 三塚車の進行状況についての主張について

三塚は、本件交差点内に進入し別紙図面②地点で停止の措置をとり、③の地点で停止して左方からの乗用車が通過するのを確認し、発進しようとした矢先に原告車両と衝突したのであるから、三塚車は、衝突時、停止またはそれに近い発進直後の時速約三キロメートルの状態にあったものである。

原告が、三塚車の速度を時速約二〇キロメートルであったとの主張の根拠としている点は次に述べるとおり失当である。

① 原告が指摘するタイヤ痕が三塚車のものであるかどうかについての証拠はないが、仮にそれが三塚車の左後輪のものであったとしても、三塚車に原告車が衝突した場合、原告車に回転運動が発生することを考慮すれば、原告指摘のタイヤ痕跡は、三塚車が発進直後の時速約三キロメートルの状態にあった場合とほぼ合致する。三塚車が時速約二〇キロメートルであった場合のタイヤ痕跡は、原告指摘とは全く異なるものとなる。

② 事故直後の実況見分調書の写真では、三塚車が中央分離帯を越えて対向車線に前部を進入させているが、それは、次の経緯によるものである。すなわち、三塚車は、本件衝突現場の直近に停止していたのであるが、そのままでは、自車が大宮市方向への第二車線はもとより、第一車線にもかかった状態となっており、大宮市方向への通行を全面的に停止せざるをえなくなるので、交通上の障害を除去する観点から、現場にいた警察官の指示に従い少し前進し、上下線とも一車線づつの通行を確保したものである。

のみならず、右写真の停止位置は、原告指摘の前記タイヤ痕の位置と異なっているのであって、この点からも、右写真をもって、三塚車が時速二〇キロメートルで走行していたとすることはできない。

③ 原告車が衝突前とは反対方向を向いて倒れたとの点については、佐藤武教授の鑑定書によれば、仮に、三塚車が停止していたとしても、衝突により、原告車は時計方向に回転するのであるから、これまた、原告の主張を裏付ける根拠とはなりえない。

④ 三塚車の右後輪タイヤの布目痕については、三塚車が停止していたとしても、原告又は同乗者は、衝突後、三塚車の後輪の方向に向いて倒れていたのであるから、衝突の際、原告又は同乗車が右タイヤに衝突したものと考えられ、布目痕の存在をもって、三塚車が時速二〇キロメートルで走行したということはできない。

⑤ 三塚車のドアの破損状況は、前記佐藤教授の鑑定書によれば、三塚車がほぼ停止していた状態にあったことを示しており、原告主張を裏付けるものではない。

ロ 原告車の速度について

原告車は指定速度を四〇キロメートルも超過する時速九〇キロメートルの速度で進行し、ブレーキ痕の印象開始時点の時速は約四〇キロメートルであったことは明らかであり、原告の主張は誤りである。

2  三3の主張について

イ 速度違反車両に対する予見の要否

深夜においては、時速八〇キロメートル以上の速度で走行する車両も少なくないことを予測して左右の安全を確認すべきである旨の原告の主張は交通の実態を無視している。

国道一六号線川越市仙波町四―一九番地先(本件事故現場から狭山市寄り八八〇メーオル)下り車線における昭和六三年七月一一日から同月一五日までの二一時から二三時までの下り車線(原告車が進行した方向)の取締結果でも、交通量に占める違反率は、二・五パーセントであり、毎時八〇キロメートル以上で走行する車両は、わずか〇・〇七パーセントに過ぎない。

ロ 交差点内における過失について

状況からみて、三塚車が安全確認義務を怠ったとか、原告車の進行を妨害した事実は全くない。

ハ 誘導者等を付さない過失について

当時の交通量、本件交差点の形状等からすると、ことさらに、警察官の誘導を必要とするような危険性、切迫性は認められない。また、原告車の走行が、暴走というべきものであったことからすると、仮に、警察官が誘導したとしても、本件事故が発生しなかったという保証はない。

第三証拠関係《省略》

理由

第一本件交通事故の発生

原告は、昭和五九年二月二九日午後一一時三三分ころ、国道一六号線を狭山方面から大宮方向へ向け自動二輪車(熊谷み一三八九)を運転して進行中、川越市大字大仙波三七一番地先路上に於いて、埼玉県巡査三塚芳郎の運転する普通貨物自動車(大宮四四さ六四八三)と衝突したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を併せれば、原告は右衝突により頸髄損傷、四肢麻痺の傷害を負ったことが認められる。

第二被告の責任の有無

一  運行供用者

本件事故当時被告が被告車を自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

二  免責事由の有無

そこで、被告には自動車損害賠償保障法第三条ただし書の免責事由があるかどうかについて検討する。

1  本件事故現場の状況及び交通規制

本件事故現場の状況及び交通規制について被告主張事実は、概ね当事者間に争いがない。

2  本件事故の発生経過及び状況

原告が国道一六号線狭山方面から大宮方面へ向け川越市大字大仙波三七一番地先路上を直進中、普通貨物自動車(大宮四四さ六四八三)を運転して原告の進行方向左側の交差道路から国道一六号線を狭山方面に向かおうとした三塚車と衝突して本件事故が起こったことは、当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》を併せれば、本件事故当日、三塚巡査は埼玉県警川越警察署交通課所属の警察官として、国道一六号線の速度取締を実施した後、帰署しようとして仙波町方向から南田島方向に通ずる川越市道を進行して本件交差点に差しかかり、本件交差点を狭山市方面に右折するため、別紙図面①地点に一時停止し、先ず右方を見たところ、約二〇〇メートル先に普通自動車を認めたのみで、左方には何も認めなかったので、時速約五キロメートルで前進し、別紙図面①と②の中間やや②寄りの地点で更に右方を確認したところ、右方には、第一通行帯約一三五メートル先に普通自動車の前照灯の明かりが、第二通行帯約一四八メートル先に自動二輪車の前照灯の明かりを認めたものの、相当距離があったので危険を感じなかったのに対し、左方には、約五五メートル先に走行してくる普通自動車を認めたので、別紙図面②の地点で停止の措置をとり、別紙図面③の地点で左前部が中央分離帯の切れ目にかかる状態で停止し、左方からの前記車をやり過ごし、再び自車を発進させようとした矢先、時速約九〇キロメートルの高速度で走行してきた原告車が右側ドア付近に衝突したものであることが認められる。

原告は、三塚車の進行状況について、右折進行するに当たり左右の安全を確認しないで突然右国道に進入したと主張するが、原告の右主張を採りえないことは前記認定のとおりである。

また、原告は、三塚車は、本件交差点内で停止したようなことはなく、衝突地点まで一気に進行してきたものであり、本件衝突時には時速約二〇キロメートルで走行中であったとして、事実欄記載の数点を根拠として挙げている。

① 成立に争いのない甲第三号証(実況見分調書)によれば、事故現場の路面には長さ約九〇センチメートルのタイヤ痕が本件国道に斜めに印象されていたことが認められるが、右のタイヤ痕が三塚車のものであるとしても、成立に争いのない乙第一七号証(佐藤武の鑑定書)によれば、三塚車に原告車との衝突により回転運動が生ずることを考慮すると右のタイヤ痕は三塚車が時速約三キロメートルであった場合に生ずべき痕跡に合致することが認められるので、前記認定のように停止したが発進しようとした矢先に衝突したとの前記認定を妨げるものではない。

② また、前記甲第三号証によれば、事故直後の実況見分調書の写真には三塚車が中央分離帯を越えて対向車線に自車前部を進入させた状況が写っていることは原告主張のとおりであるが、《証拠省略》を併せれば、衝突後三塚は現場に到着して交通の安全確保のために交通整理に当たった警察官の指示に従い約一メートル程動かしたが右写真はその後撮影した写真であることが認められるから、右写真は原告の主張の根拠とはなりえない。

③ 更に、前記甲第三号証によれば、原告車は衝突前とは反対の方向を向いて倒れていたことが認められるが、前記乙第一七号証によれば、仮に三塚車が停止していたとしても、衝突により、原告車は時計方向に回転したことが認められるから、原告の主張を裏付ける根拠とはなりえない。

④ 《証拠省略》によれば、衝突後の三塚車の右後輪タイヤには布目痕があったことが認められるが、前記甲第三号証と《証拠省略》を併せれば、原告及びその同乗者は衝突後三塚車の後輪の方向に向いて倒れていたことが認められるので、右布目痕は衝突の際の車両の運動により生じたものと考えられるが、三塚車が時速二〇キロメートルで走行していたとする根拠とはならない。

⑤ また、《証拠省略》によれば、原告車のドアの破損状況は原告主張のとおりであることが認められるが、前記乙第一七号証に照らすと、原告車がほぼ停止した状態で衝突したことを示す破損状況であると解するのが合理的である。

従って、原告指摘の点はいずれも三塚車の進行状況についての前記認定を左右するに足りない。

原告車の進行速度については、成立に争いのない甲第一二号証(鈴鹿武の鑑定書)によれば、原告車の速度は上限が時速約八三キロメートルとされるが、三塚車が別紙図面①の地点から②の地点まで至るのに六秒かかるとするなど必ずしも断定できない事実を前提として計算していることが認められるから前記認定を妨げるに足りない。

3  三塚巡査の過失の有無等

イ 前記認定の事実関係からすると、三塚巡査には右折発進時においても、交差点内においても、何らの過失がなかったとみるのが相当である。

原告は、交通量の少ない深夜においては時速八〇キロメートルで走行している車両が少なくないことを予測して安全確認義務があるというが、《証拠省略》によれば、深夜であっても毎時八〇キロメートル以上で走行する車両が少なくないという原告の主張は事実に反することは明らかである。

なお、前記認定の本件事故の発生経過及び状況に照らすと、三塚には誘導者をつける義務まではなかったと認めるのが相当である。

ロ これに対し、原告は、指定速度を四〇キロメートルも超過する時速約九〇キロメートルの高速度で、しかも前方不注意のまま漫然と進行するという過失をおかしたため、本件事故を回避できなかったことは前記事実関係から明らかである。

ハ また、《証拠省略》を併せれば、被告は三塚車の運行に関し、注意を怠っておらず、三塚車には、何らの構造上の欠陥及び機能の障害はなかったことが認められる。

4  結論

そうすると、本件はまことに不幸な出来事であるが、被告には、自動車損害賠償保障法第三条ただし書の免責事由があることになる。

三  むすび

以上の次第で、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小笠原昭夫 裁判官平林慶一、同永井裕之は転勤のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 小笠原昭夫)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例